『天気の子』をネタバレなし評価(未視聴の方向け)とネタバレあり感想(視聴済みの方向け)でレビューします。
※ネタバレあり感想は、ページ最下部に掲載。
おすすめ度:★★★★★(93点)
一言感想 :今作は「2回目」にこそ光輝く。瑞々しく大胆な感性と確かな演出力により丁寧に織り上げられた新海監督「第二の傑作」
評価(5段階・要素別)
カテゴリ:ドラマ・ファンタジー
総評価:★★★★★(93点)
シナリオ:★★★★★
キャラクター:★★★★★
演出:★★★★☆
(音楽:★★★★☆ 映像:★★★★★ アイデア:★★★★★)
※評価の理由は、ページ下部に記載しています。
「1分で読める」レビュー要約
【超あらすじ】
現代東京を舞台に、家出少年と天気をあやつれる少女が出会い・・・
■『天気の子』は、『君の名は。』と比較しておもしろい?
・それぞれの持ち味が違うので甲乙つけがたい。
・エンタメ力は少し落ちるが、「群像劇の要素や主題の設定」などシナリオ構成が美しいのが特徴。
・主題の扱いについては賛否両論になる。
【見どころ】
・各キャラクターのシナリオとその収束
・光と水の映像表現。そして、勝負シーンのダイナミックな映像。
・キャラや台詞、構図への理解が進んだ2回目の視聴でこそ、更に大きな感動が味わえる。
【その他、良かった点】
◎俳優陣の演技
◎密度の濃いシーンの数々
【その他、気になった点】
△音楽を用いた演出力は前作よりやや低下
※結末など作品の解釈関係はページ最下部のネタバレ有り感想に記載
『天気の子』レビュー・感想
※本記事は、『君の名は。』のネタバレを含みますのでご注意ください。
『君の名は。』から3年。
ついに、新海誠監督の最新作『天気の子』が公開されました。
当然、公開初日の9時の回を予約。
平日の早い時間ですが、座席は幅広い年代層の人でうまっており、注目度の高さが伺えました。
超あらすじとしては、家出少年と天気をあやつれる少女が出会って・・・というもの。
ネタバレを伏すと、それ以上は書けません。
さて、肝心の内容ですが・・・
傑作です。
見終わったあとの充実感が素晴らしい。
新海誠監督らしい瑞々しい表現や想いのつまった作品でした。
『君の名は。』と比較して・・・
ただ、気になる人が多いのは今作は『君の名は。』と比べてどうなのかという点でしょう。
正直、甲乙つけがたいです。
というのも、この2作品は持ち味や長所がだいぶ異なると思うのです。
総合的にレベルが高いのは前提として、まず、『君の名は。』の長所は2つあると思います。
①演出や設定の巧みさにより生まれる、印象に残るシーンの多さ
②物語の起伏が激しく起承転結が美しいシナリオ
①の印象的なシーンについては説明不要でしょう。
歌と背景の美しさ、そして伝承を利用したロマンのある設定が融和することにより生まれた、数々の名シーンは素晴らしかった。20分に1回は名シーンがあるレベルです。
しかも、そのどれもが強いインパクトを持っている。
この点で比較すれば、『天気の子』の名シーン数は30分に1回レベルで『君の名は。』には及ばないと思います。
■『君の名は。』の名シーン、片割れ時
②のシナリオについても同様です。
恋した女性がすでに亡くなっているという衝撃。そして、その運命を乗り越えるというカタルシスの大きさ。
更には再びの別れと再会。正直、完璧なエンタメです。
この点でも『天気の子』はエンタメ力の原動力となるシナリオの起伏では勝てていないと思います。
しかし、断言できます。
『君の名は。』にはない、『天気の子』ならではの持ち味があります。
持ち味①:キャラそれぞれに物語があり、更にはそれが収束していく。群像劇のようなシナリオ構成の美しさ
『君の名は。』のキャラクターはそこまで強いインパクトが無かったように思います。
特に、サブキャラクターに与えられた見せ場はわりと限定的でした。
その点、『天気の子』のキャラクターには万遍なく見せ場が与えられていました。
また、その見せ場に至るまでにそれぞれの物語がある。これが良かったです。
主人公の「帆高」とヒロインの「陽菜」には当然、若さあふれる瑞々しい物語がある。
一方で、サブキャラポジの「夏美」や「須賀」にも、主人公たちより少し歳をとっているからこそ魅せれる物語がしっかりと作られています。
そして、それぞれの物語がラストに向けて美しく収束していく。
この構成の美しさはとても面白く見れました。
■真ん中が小栗旬さん演じる「須賀圭介」。個人的に気に入ったキャラです。
持ち味②:「主人公の選択」という主題を描くために作り込まれたシナリオ構成
こちらもシナリオ面となってしまいますが、シナリオの練り方が計算されていて綺麗でした。
『君の名は。』のシナリオは大分エンタメ・ドラマ的な面白さ重視でつくられていて、それが評価されていたと思います。
一方で、『天気の子』のシナリオは主題を大切に描くことを中心に作られていると思います。
その主題とは、主人公である「帆高」の選択。
彼が何を選ぶか。なぜその選択をするのか。
選択をドラマ的に盛り上げられるか。
そして、その選択に観客が感情移入できるか。
そういった主題の描き方を中心に据えて、エピソード選びがされていると感じました。
■主人公の「帆高」
パンフレットやインタビューで新海監督は「この作品は賛否両論になると思う」と述べています。
賛否両論になることを想定した上で提示された今作の主題を、見た人がどう受け取るのか。
そういった、「主題を味わう」という能動的な楽しみを享受できる点が、今作の持ち味です。
持ち味③:小技を用いた演出の上手さ
今作の演出は、派手さは少し薄れたのですが、小技が凄く効いているのが特徴です。
どれも中身を書くと初見の面白みが薄れるので書きにくいのですが・・・
ちょっとしたセリフで観客の関心を集め、それを後で上手く使い、大きな感情の揺さぶりにつなげるといった感じ。
例としては『君の名は。』で言えば、瀧in三葉の胸さわりネタみたいなやつです。
■笑って泣ける迷シーン。柔らかそう。
この演出テクニックが、『天気の子』では更に増量されてます。
また、ちょっとしたセリフや描写だけで笑いを起こす、小技の効いたシーンが多くつまっていたのも印象的です。
総じて、省エネだけど効果的な小技演出が光っています。
総評と見どころ紹介
総合的に見ると、『君の名は。』はエンタメ全開でわかりやすく万人向け。
『天気の子』は持ち味が少しマニアックなところもあり、わずかに玄人向けと言えるかも知れません。
そういう意味では、『君の名は。』→『天気の子』というリレーは作品が一番楽しめる非常に理想的な流れと言えると思います。
最後に、今作の見どころなどをいくつか。
まず、シナリオ面。
今作のストーリーの進行速度は独特です。
見る人によっては、中盤あたりで尺不足の心配をされるかも知れません。(私がそうでした。)
しかし、心配無用です。
余計な心配をせず、物語にのめり込みましょう。
ストーリーの面白さは持ち味の部分で書いたとおり。
サブキャラクターのストーリーが掘り下げられ、それが収束していく群像劇のような面白さが見所です。
主人公とヒロインだけでなく、各キャラクターそれぞれの物語を追いかけながら見たいところです。
ただ、声を大にして言いたいのは、今作は2回見たほうが良いということ。
各キャラが作品の中でどういう立ち位置なのかを整理してから見る。
すると、物語の主題に関する味わい深さが格段に上がると感じたからです。
実は今作、物語の主題を表現するために、キャラの設定や一つ一つのセリフ、更には映像の構図などに徹底して意味が込められています。(と、私は感じました。)
キャラや主題への理解が進むことで、それらの意図が分かるようになる。
そして、1回目では味わえなかった感動を味わうことが出来るのが今作の魅力だと思います。
なお、個人的な整理はネタバレあり感想に書いているので、見終わった方はぜひ。
■ヒロイン「陽菜」。明るいだけではない、意味深な表情もするキャラ。
続いて、映像面。
天気をテーマにしているということで、水の表現と太陽の表現は見逃せません。
雨から涙まで、一粒一粒丁寧に描かれている「水」は実在感抜群。
雲間から一気に差し込む太陽の光も、幻想的に描かれていました。
また、カメラワークにも注目です。
今作は、観客のキャラへの同化を進めるために、キャラの視線にそってカットが切り替わっていくシーンと、大分キャラに寄っているアップ目なカットが多かったように思います。
一方で、勝負シーンでは引きとアップのダイナミズムが気持ちよく決まっており、その使い分けも注目どころです。
その他、良かった点と気になった点
その他、印象的だった点をいくつか紹介します。
◎俳優陣の演技は違和感なし。
今回出演されているキャスト陣は、ほとんどが俳優さんでした。
それだけに心配されるのは、声優としての演技が微妙なのではという点です。
特に、本田翼さんは某所で棒演技なのでは・・・なんていう話題も。
しかし、そんな心配は全く無用です。
皆さん、自然かつ存在感のある演技をされていました。
個人的に気に入ったのは、主人公「帆高」役の醍醐虎汰朗さんと陽菜役の森七菜さんの掛け合い。
お互いを大切に思う親近感がのった演技が聞いていて心地よかったです。
また、醍醐さんは新海作品の特徴であるモノローグが多めでした。難しい演技でしたが、それぞれのシーンで違う感情がセリフに込められており、上手くさばいていました。
◎一つのシーンで処理する内容の密度は相変わらず
『君の名は。』でもそうだったのですが、要所となるシーンで処理する内容の密度が凄いです。
例えば、『君の名は。』の入れ替わりによって瀧と三葉の生活が劇的に変化していくシーン。
数分の歌に乗せたダイジェスト映像で一気に描かれています。並の映画であれば数十分かけて描くことを、『君の名は。』では数分。
普通なら描写不足で物足りなくなってしまいがち。
しかし、演出が素晴らしいからこそ、数分でも十分な満足感があります。
更に、それによって浮いた時間でもっと色々なエピソードを詰め込んでいくから、見終わったあとの満足感が凄い。
この特徴は『天気の子』でも同様です。
一つ一つのシーンを、密度を濃くして描くことで、多くのエピソードをつめこみ、満足感を高めることに成功しています。
△音楽を用いた演出力はやや低下
個人的に、『君の名は。』と比較して低下したと思うのが音楽を用いた演出力の部分です。
いまいち、前作ほどは音楽と画面がハマっていないと感じます。
そのため、インパクトのある印象的なシーンは減ったと思います。
しかし、数は減ったもののいくつかのシーンのインパクトは『君の名は。』クラスに凄いので満足感はありました。
結び
前作の大成功によってものすごくハードルが上がってしまった『天気の子』。
正直、この高すぎるハードルをどのように処理するのか心配だったのですが、一本取られた心持ちです。
エンタメという要素は残しながらも、別の大切な要素を掘り下げることで、同じだけどぜんぜん違う作品が作り上げられていました。
正直、主題まわりについて書いていきたいところですがそれはネタバレ感想の方で・・・
ともあれ、『君の名は。』に引き続いて、アニメ史に残るべき名作が生まれたと思います。
必見です。
評価の理由(5段階・要素別)
総評価:★★★★★(93点)
シナリオ:★★★★★
上述の通り。主題を中心に据えた構成が美しい。
キャラクター:★★★★★
全体的にキャラが立っており、役割が上手くバラけていた。
・割と無茶をするトリックスターな帆高
・可愛い陽菜
・お色気+ギャグ担当の夏美
・マスコット担当の凪
・いぶし銀な須賀
また、配役にも無駄がなく、計算されている印象をもった。
演出:★★★★☆
(音楽:★★★★☆ 映像:★★★★★ アイデア:★★★★★)
記事の通り。
アイデア面では、小ネタを上手く使っていたのは特に印象的。
ネタバレありで語りたい(ネタバレあり感想)
ここからは、徒然にネタバレありで感想を書き連ねます。
未視聴の方は、バックをお願いします。
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では。
まずは、結論的な話題から。
帆高は『天気の子』でなにを選んだのか←2回目の注目ポイント!
今作の主題が「帆高の選択」であることは上の方で軽く触れました。
ではその選択とはなんなのか。
私は次の通り捉えています。
表面:「陽菜と世界のどちらを選ぶか」
裏面:「大人で合理的な世界に屈するか」それとも「子供で非合理な自分を貫くか」
表面については説明不要でしょう。陽菜と世界を天秤に図り、陽菜を取ったことによって東京は水没しました。
ただ、この選択の背景には「合理」と「非合理」、「大人」と「子供」の関係性が存在します。
まず、キャラの立ち位置の整理から。
子供:帆高、凪
大人:須賀、警察全員
大人→子供への変化:陽菜、夏美
子供と大人の立ち位置にいるキャラの動きを中心として、「合理と非合理」の関係性を説明していきます。
帆高は作中で、ひたすらに子供で非合理な存在として物語を突っ走ります。
・東京に大きな理由もなく家出ってそもそも超非合理。
・中盤で銃を何度も使う辺りも極めて非合理。そして、東京を水没させる。
・ラストでは己の決断の重さに泣きながらも笑って陽菜と再会する。
⇨作中を通して、帆高は非合理の化身として描かれています。
そんな彼を止めるために警察と須賀が動きます。
非合理な存在に対する、「合理性を求める世界の圧力」として彼らは描かれているわけです。
個人的に面白いと感じたのは須賀の立ち位置。
「もう大人になれよ、少年。」
物語の中で須賀は執拗に帆高へ大人になることを促します。
序盤から終盤のビルシーンまで延々と。
早々に子供な存在へとシフトした夏美とは違ってギリギリまで大人側の立ち位置を維持します。
完璧に、合理的な世界の化身として主人公の壁となっているわけです。
しかし、物語の終盤で須賀は、警察を殴って帆高を先に行かせるという非合理な存在に入れ替わる。
そのきっかけは帆高の積み重ねてきた行動と、熱い非合理な想い、叫び。
そんな極めて人間的な非合理なものによって「大人な世界」の一端が動いた。凄い熱いシーンで、大事な役回りを果たしています。
ただ、お気づきでしょうか。
3年後の世界で、帆高に対して須賀は改めてあるセリフを投げかけます。
「お前らがこの世界を変えた?自惚れんな。この世界はもともと狂ってるんだ」
うろ覚えですが、個人的に凄い好きなセリフなんですよね、これ。
非合理な選択によってとりかえしのつかないことをしたと怯える帆高に対して、世界はもともと狂っていると断言する須賀。
このセリフは、かつてのような”合理的な”世界の「壁」としてのセリフではないんです。
帆高がしなければならない、非合理な世界にしたことの重みを受け入れるという巨大な選択。
確かに、位置づけとしてはそれを促すための「壁」となりうるセリフです。
しかし、そこには中盤までのような合理さはありません。明らかにやっちまったのは帆高です。それを世界が狂っていると断じる。とても”非合理”なセリフです。
このセリフに見えるのは、帆高を気遣う優しさだと思います。逃げても良いんだと提示する優しさ。
ここから言えるのは、須賀の壁としての役割が変わったということです。
前提として、最後の帆高の選択(=世界を水没させたことを受け入れる)は、セカイ系※の文脈にありません。もう世界は堕ちているからです。
※ボーイミーツガールの物語が世界の行く末に直結する作品
つまり、最後の選択は極めてパーソナルなもの。帆高個人の選択なんです。
そんな彼の選択を促すのも、やはり須賀。
合理な世界の化身から変化し、帆高の父ともいえるようなパーソナルな存在として最後の壁になっている。
非合理なセリフで、帆高へ逃げることも一つの選択肢だという提示する、お父さんのような優しさで最後の選択を促しているのです。
最初から最後まで、立場を変えながらも帆高の壁としての存在を貫く須賀というキャラ。
小栗さんの演技とも相まって完全にキマっています。とても気に入りました。
陽菜と帆高の関係性について
続いて、「大人と子供」という観点から見る陽菜の解釈です。
なぜ、陽菜は帆高に惹かれたのかという点です。
まず、彼女は大人を取り繕う子供という存在なんだと思います。
彼女は、基本的に大人な面を見せます。
序盤で銃を撃った穂高への反応や、ラブホでの世界の犠牲になることを受け入れるような表情。弟を一人でバイトしながら育てる姿はもはやお母さんレベルです。
しかし、そういった大人な姿が18才から15才へのシフトという事実により劇的に変化する。
合理的に見えた姿の全てが、非合理へと変化する。
犠牲になったあとの指輪を拾おうとする姿や、弟を一人で育てようとする15才という立ち位置は極めて非合理です。
そのように陽菜の姿を追っていくと、陽菜が帆高に惹かれた理由が腹落ちする気がします。
合理的な世界に対し、非合理な存在を貫いて生きていくそのあり方。
それは、合理的な世界に染まろうと頑張る陽菜には眩しく見えたのではないでしょうか。
更に、帆高は「天気の商売」という非合理な発想で陽菜の世界を変えていく。
このように見ていくと、花火シーンでの陽菜のセリフに込められた想いは、過ごした時間の長さでは変えられないほどの重さがあったように感じます。
ここまで、「非合理と合理」観点から作品を追ってきました。
これらの内容から私は、作品に込められたメッセージ性を次のように捉えました。
①世界は無意識のうちに合理的であることを強制する狂った世界である。
②そんな世界の理不尽に「歯向かう」という選択肢も存在する。
とても勇気がいることですが、たまには非合理な選択もして行きたいところです。
作品を巡るサービス精神について
あとは細かい話題です。
今作は、サービス要素の多さが特徴的だったと感じました。
『君の名は。』の主要キャラを要所要所で配置するというのは、驚きです。それも、瀧と三葉にはセリフまで与えられており前作ファン的には嬉しい要素でした。
もっとも、どうせ出すなら二人が一緒にいるシーンにして欲しいと思いましたが。
サービスカットも多めです。パンフによれば、夏美さんには男性スタッフ陣の夢が詰まっているそうですが、いい仕事だと思います。
もっとも、胸カットについては演出的にも効いています。
日常シーンで胸ネタを多用する。
そして、決めシーンとなるラブホのシーンでは陽菜が服をはだけさせるのに胸が見えないという悲劇を持ってくる。
これまでの積み重ねによりこのシーンの悲劇性が大きくましていると感じます。
同系の手法で上手く感じたのは、夏美の設定周りでしょう。
いくつかのシーンでは愛人という色っぽい役回りを与える。そして、後半で普通の大学生に衣替えされる。
これだけでも意外性があり上手いのですが、更に凄いのはこれにより物語上の役回りまで変えている点。
前半から中盤では、帆高より須賀に近い「大人で合理的」な存在として描かれている。
バーで二人で愚痴るシーンなんかは象徴的です。
それが、衣替え以降は穂高に近い存在として描かれ、バイクで警察から逃走という極めて子供で非合理な行動を取る。
このシフトが自然に上手く行っているのは、その前段で愛人から大学生へのシフトが行われているからだと感じました。
さて、深夜アニメファン向けのサービスとしては、アヤネ役の「佐倉綾音」さんとカナ役の「花澤香菜」さんの出演でしょう。
ただ登場させるだけでなく、凪の児童相談所からの脱出にも一役買うことで見せ場を作っている点も高評価です。
伏線の貼り方に見る『君の名は。』との比較
この作品の伏線の貼り方は緻密かつ丁寧です。そして、それがないとこの作品は成立しないと思います。
というのも、この作品の設定って正直強引なんですよね。
普通の日本が舞台なのに、降って湧いたように陽菜が天気の子になって、セカイ系の文脈につながる。最後には東京水没という異常事態に至る。
この流れに説得力を出すのは容易ではない。そこで使われているのが緻密な伏線貼りです。
天気の異常と陽菜の運命については、最序盤で占いおばばからすでに暗示がされている。あくまでギャグシーンの雰囲気を漂わせながらさり気なく。
そして、気象研究者からもこの世界特有の天気事情についての暗示がされる。続いて、雨が魚になるという異常現象がおきる。
そういった段階を経てセットアップがされた後、中盤の寺での解説が入るという丁寧な作りです。
そこまでやった上で更に、坂道のシーンで陽菜が一度消えかけることで、ラブホで消えるという運命が確定したことを滲み出すわけです。
このような形で丁寧に観客に心構えを促しているからこそ、突飛な設定に感情移入が出来るんだと思います。
一方で、ちょっと丁寧すぎという気もする。
『君の名は。』の隕石シーンも同じようなことはやっています。
ですが、そっちでは物語の冒頭に伏線シーンを持ってきて、かつ、画面を幻想的にすることで、隕石による悲劇の暗示という側面を弱めている。だからこそ、いざ悲劇が起きたときに意外性と納得を両立できている。
今作は前者の意外性という側面は弱まっており、作品全体として想定の範囲内に収まってしまっているのは少し残念な点です。
ここまで長々と書いていきましたが、何が言いたいかといえばネタバレ無し記事で書いたことと同じです。
伏線の貼り方やキャラそれぞれの物語を追ってこそ、この作品は十分に楽しめるということです。
表層だけでも楽しめて、深層でも楽しめるこの作品を味わい尽くしましょう。というわけでまずは2回目を見てきます。
以上、『天気の子』レビューでした。