【ネタバレ無し】映画レビュー『きみと、波にのれたら』感想・評価(41点)

【ネタバレ無し】映画レビュー『きみと、波にのれたら』感想・評価(41点)

2019年春公開『きみと、波にのれたら』をネタバレ無しで、感想・評価とあわせてレビューします。

※ネタバレ有り感想は、ページ最下部に掲載しています。

 

おすすめ度:★★☆☆☆(41点)

 

一言感想 :好きになれない主人公の恋愛ほど、興味のわかないものはない

キービジュ_君と波にのれたら 

「1分で読める」レビュー要約

【超あらすじ】
趣味のサーフィンを通して知り合った「ひな子」と「港」。互いに惹かれ合い恋愛関係に発展するも、突如「港」は事故で死んでしまう。

打ちひしがれる「ひな子」だったが、ある日、二人の思い出の歌を口ずさむと「港」が水の中に現れることに気づくのだった。

 

【作風・作品の印象】
・恋愛×歌×不思議要素と心惹かれる題材を詰め込んだロマンがあふれる作品

・アニメ映えする水の表現は見応えあり

・恋愛を軸に置いているが、主題は主人公の人間的な成長

【主な見どころ・長所】
◎力の入った水表現は一見の価値あり

【気になった点・短所】
△自己中心的な主人公の魅力の無さ

△成長を描く作品なのに、成長に説得力がない

「きみと、波にのれたら」レビュー

導入

「四畳半神話大系」などで知られる「湯浅政明」監督の新作映画、「きみと、波にのれたら」を見てきました。

一言で感想を言えば、久々に残念な作品を見たといったところです。

 

平日のためか、お客さんはまばら。

客層はカップルがわずかと、自分と同じくアニメ好きのオーラを感じる男性陣が中心でした。

・・・恋愛映画なのに、「プロメア」と同じ客層なのは問題があるかもしれません。

 

さて、今作は王道な要素が多数つめこまれています

・アニメ映えする水表現

・思い出の歌をキーに死んだ彼氏が蘇るという泣き要素

・恋愛を通して描かれる主人公の人間的な成長

これらが全てうまく行けば傑作間違いなし。

完璧なエンタメ作品になるでしょう。

 

しかし、これらのうち、うまく機能していたのは「アニメ映えする水表現」だけだったというのが個人的な感想です。

泣き要素も、人間的な成長もある一つの要因によって魅力のないものとなっていました。

それはひとえに、「主人公に全く魅力がない」という1点につきます

 

極論、主人公に魅力がなければ、彼氏が水の中に居ようが人間的な成長があろうが全く関心を持てません。

全てがどうでもよくなってしまいます。

更に、物語がご都合展開。

つまり、主人公に都合よく世界が回っている点もイライラに拍車をかけます。

 

詳細は順に紹介しますが、恵まれた映像+残念なキャラ+残念なシナリオというアンバランスな作品だったというのがこの作品全体の感想となります。

まずは、要素別評価です。

 

 

評価(5段階・要素別)

カテゴリ:恋愛

総評価:★★☆☆☆(41点)


シナリオ:★★☆☆☆

キャラクター:★☆☆☆☆

演出:★★★★☆
(音楽:★★★☆☆ 映像:★★★★☆ アイデア:★★★★☆)

※評価の理由は、ページ下部に記載しています。

 

◎アニメ映えする水の表現

まずは、唯一褒められるところから。

この作品の「水の表現」は素晴らしいものがあります。

 

作品の中で「水」はいろいろな活躍をしています。

・主人公の「ひな子」とヒーローの「港」はサーフィンをきっかけに惹かれ合う

・ひな子が住むのは海の近く

・港の仕事は消防士

・港が現れるのは水の中

 

などなど、水が描かれる機会が多々あります。

それらを、時にダイナミックに、時には繊細に幅広いタッチで表現しており一見の価値があると思います。

 

雰囲気は、下記のPVをご覧ください。

△キャラクターに魅力がない・・・

ここからは、残念だった点になります。

先述の通り、特に残念だったのは主人公のキャラ設定。

しかし、それ以外のキャラも全体的に微妙です。

 

欠点だらけの主人公の良さが見えない

まずは、主人公の微妙さから。

本来、魅力のあるキャラクターは以下のような形になっていると思います。

 「強み・長所」+「弱み・短所」

上記がバランスよく設定されている。更に、上記の長所と短所にギャップがあれば最高です。

 

この視点から主人公のひな子を見てみると、こんな感じです。

 「長所=生来の明るさ?、優しさ?」+「短所=生活力のなさ、人に甘えがち、打たれ弱い、人生設計がない・・・etc」

 

まず、見ての通り短所が多すぎます

もうちょっとこの人の良いところを描いてくれないと好きになれません。

 

次に、長所の部分ですがここも「?」がついてしまうんです。

なぜかといえば、作中でそういった長所が描かれるのはワンシーン程度。

エピソードの積み重ねで長所を描いているわけではないので、長所が心に響きませんでした

 

価値観がよく見えない他のキャラたち

では、主人公だけが微妙かといえばそういうわけでもない。

他のキャラも微妙です。

 

先述のような「長所+短所」のバランスが悪いのは同じなのですが、更に良くないのはキャラの価値観が一貫していないところ。

 

例えば、作中では恋愛を嫌うキャラが出てきます。

しかし、大した描写もなく、いつのまにか恋愛を迎合するキャラクターへと変化を遂げている。

正確には描写自体はあるんです。ただ、その描写と変化がうまく結びついていない印象を受けました。

その結果、価値観が一転しているよくわからないキャラクターのように見えました。

 

このような価値観の変化がうまく伝わってこないために、単に芯のないキャラに見えてしまう現象がこの作品ではいくつか見られました

 

△成長を描く作品なのに、成長に説得力がない

このような「変化の説得力のなさ」は作品の要である主人公の描写にも現れてしまっています

 

作品内では、主人公の成長を描こうとしているわけですが、こちらも説得力が薄いです。

なぜかといえば、主人公が変化をするために自ら努力をしている描写がほとんどないから。

ただ主人公に都合よく出来事が起き、解決され、それが成長だというような描写になっている。

 

確かに、PVにあるように主人公は悲恋に巻き込まれていくわけです。

それ自体は主人公が背負った苦労だったと思います。

しかし、その先で主人公が取っていく行動が成長するための努力だったかというと、疑問符が浮かびます。

 

また、詳細はネタバレになるため書きませんが、作品の設定部分も主人公への都合の良さにあふれています。

そもそも微妙なキャラとなっている主人公ですが、その上、作品全体に主人公への都合の良さが散りばめられており、個人的には一昔前の携帯小説のような残念さを感じました

 

 

総評価と感想

◎アニメだからこそ見られる水の表現にはこだわりが見えた。

△キャラの微妙さがシナリオへの没入感を狭めている。

△主人公の周辺を取り巻く都合の良さが気になる作品。

 

率直な感想としては、このリソースでもっと他の作品が見たかったといったところです。

映像自体はとても楽しめる出来です。

記載した水の表現はもちろんのこと、ちょっとしたショットのレイアウトや演出の面白さなんかは1時間半の間にたくさんつまっており見ごたえがあります。

また、シナリオ全体のメリハリ、つまりシリーズ構成的な所は割とよく出来ています。しかし、キャラの微妙さとシナリオの都合の良さがそれを潰しにかかっています。

 

この作品に注がれた演出力でもっと他のエンタメ映画ができていればなぁと思わざるを得ない作品でした。

不満点はなかなかネタバレ無しでは書きにくいので、ネタバレ有り感想にそこらへんは書こうと思います。

 

評価(5段階・要素別)

カテゴリ:恋愛

総評価:★★☆☆☆(41点)


シナリオ:★★☆☆☆

先述の通り。

尺の中でのメリハリ=幸福から絶望、そこからの脱却といった構成は効いていると思いますが、その描き出し方に共感できませんでした。

 

キャラクター:★☆☆☆☆

先述の通り。

 

演出:★★★★☆
(音楽:★★★☆☆ 映像:★★★★☆ アイデア:★★★★☆)

音楽は主題歌を何度も作中で聞くことになります。良い曲だとは思いますが多用し過ぎな印象です。

映像面は先述の通り。非常に力の入ったものでした。

演出アイデアも優れていたと思います。主人公カップルの甘々な恋愛描写はアイデアの詰まったものとなっており非常に良かったです。

 

ネタバレありで語りたい(ネタバレあり感想)

ここからは、ネタバレありで思うままに感想を書いていきます。

未視聴の方は、バックをお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

では。

 

■主人公を取り巻く都合の良さ

一番気になったのはここです。

何でも超人+イケメンの港が主人公に惹かれる理由は、大昔にひな子が港を助けたから。

うーん・・・千と千尋かな?

 

千と千尋との違いはその説得力でしょうか。

千と千尋では、事実が明かされるシーンの映像的な美しさや物語の盛り上がり、そこに至るまでの千尋の健気さ、相手が神様であることなど全てが噛み合っていました。

だからこそ、因果応報の美しさに共感できたんだと思います。

 

一方で今作ではそういった点に工夫が足りなかったように思います。

世界観自体は割と現実よりな世界の中で、十数年も前の出来事をずっと引きずる港はちょっとストーカー気質のように感じます。

 

また、なんでも超人の港がサーフィンを学んでこなかった理由もわかりません。

自分が助けられたから人を助ける仕事をしたいといって消防士になった港。

その経験なら普通、消防士ではなくライフセーバーを目指すのでは?

主人公と出会わせるきっかけがなくなるから消防士設定になったようにしか見えません。

 

最終シーンではひな子のサーフィン技術が生きて、新たな夢となった人を守ることに成功します。

いやいや、最終的な成長も結局はもともと得意だったことで果たしてしまうのか。

普通は悲恋をきっかけに主人公が何かに向けて努力を始め、それが芽吹くシーンじゃないのか。

そこも都合よく世界が回ってしまうのかって感じです。まぁ、ライブセーバーの訓練中も逃げてしまうような描写でしたので他にやりようがなかったとは思いますが。

 

■その他キャラの微妙さ

港の妹「洋子」と「葵」の恋愛模様も残念でした。

まず、葵がひな子に惹かれる構図に説得力がない。

手ぬぐいもらって惚れるって高校生の恋愛か!

 

続いて、物語の犠牲となった洋子は可哀想でした。

葵に告白をするも完全にスルーされる。葵は相変わらずひな子に惹かれているが、ひな子が洋子に譲るような形でようやく葵とデートすることになる。

そこからの「恋愛を嫌うやつは人生を損してる」発言。

初登場時の狂犬のような強さはどこへいったのか。もっと魅力的に描くことができたんじゃないかと思います。

 

最後に、ヒーローの港も可哀想でした。

あれだけの努力家でありながら十数年ひな子に想いを寄せることになり、恋が実ったと思ったら突然の事故死。

その上、妹の洋子にはろくに泣いてももらえず、死んだ後も尽くし続けた彼女のひな子には割とあっさりと死を割り切られる。

ひな子の踏み台以上の何者でもありませんでした。

 

全体を通してひな子を中心に世界が回りすぎですね。

それが妥当だと思えるような魅力があればまた違った見方もあったんでしょうが・・・

なんとなく、構図が「テイルズオブゼスティリア」に似ているような気もします。

ともあれ、久しぶりに残念な映画を見たというのがこの作品の総括です。以上、レビューでした。

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