2018年秋アニメ『ゾンビランドサガ』をネタバレ無しで未視聴の方も読めるよう、感想・評価とあわせてレビューします。
7/27追記:祝・二期決定!!
おすすめ度:★★★★★(88点・良作)
一言感想 :ゾンビとギャグだけじゃない。熱さ・シリアス・アイドル要素も見応え充分な、一粒で何度も美味しい意欲作。
「ゾンビランドサガ」はどんな作品?
概要紹介
イントロダクション(ウィキペディアより抜粋)
『ゾンビランドサガ』は、MAPPA、エイベックス・ピクチャーズ、Cygames共同企画による日本のテレビアニメ作品。2018年10月からAT-Xほかにて放送中。ゾンビとして生き返った少女たちがプロデューサーに導かれながら、佐賀県を救うためにご当地アイドルとして活動する様子を描いたオリジナルアニメ。ストーリーについては製作発表から本放送開始まで「新感覚ゾンビ系アニメ」というジャンル以外は伏せられ、先行上映会では来場者に対してネタバレしない旨を記載した誓約書への署名が求められるなど情報統制が行われた。
○「ゾンビ×アイドル×佐賀」をテーマとした作品。
○個性が強い要素を更に組み合わせてしまった異色のオリジナルアニメ。
○ギャグ7割、シリアス1割、王道2割の”視聴後感の良い元気な作品”という印象。
では、内容に入っていきます。
「ゾンビランドサガ」の作風は、個性の強いキャラクター達がゾンビネタによるギャグを勢いに乗せて展開していく。
これが基本形です。
第2話くらいまでは、基本形を中心に話が進みます。
ただ、この作品の凄いところはその先にあります。
3話以降、ギャグの魅力はそのままに、他の面白さがどんどん湧き出てきます。
実体験を述べると、私は別記事(2018年秋アニメ1話段階評価)でこの作品を低評価にしています。「ギャグは面白いけど勢いだけだなぁ・・・」と感じたからです。
実に、見る目がない。
そんな評価から一転。今ではかなりこの作品に入れ込んでます。
3話から「ゾンビランドサガ」の真の作風が見えてきます。
それは、ギャグの面白さはそのままに、ゾンビであることを十二分に活かした唯一無二の友情・王道アイドルサクセスストーリーです。
まさか、この作品に感動したという感想を持つとは思いもよりませんでした。
さて、今回のレビューでは、ゾンサガの「ギャグの先にある真の作風」などにもふれながら、この作品の良さを紹介していこうと思います。
要素別評価(5段階)
カテゴリ:アイドル・コメディ
総評価:★★★★★(88点・良作)
シナリオ:★★★★☆
キャラクター :★★★★★
演出 :★★★★★
(音楽 :★★★★★ 絵 :★★★★☆ アイデア:★★★★★)
※要素別評価の理由は、ページ下部に記載しています。
生き生きと動き回るゾンビたちの魅力
「ゾンビランドサガ」の魅力として真っ先にあげたいのはキャラクターの良さです。
ギャグシーンから時にはシリアスまで、いつも全力で25分間を走り抜けるキャラたちにどんどん愛着が湧いてくる。
そんな「ゾンサガ」のキャラの良さを紹介します。
「そのキャラらしさ」を大切にした丁寧なキャラ描写
「ゾンビランドサガ」のメインキャラは全員で8人。
割と人数が多いのですが、それぞれが強烈な個性を持っていて空気キャラがいません。
まず、メインキャラの設定は、こんな感じです。
フランシュシュ(作中のアイドルユニット)のメンバー
源 さくら :アイドルを夢見ていた平凡な高校2年生。
二階堂 サキ:伝説の特攻隊長
水野 愛 :伝説の平成のアイドル
紺野 純子 :伝説の昭和のアイドル
ゆうぎり :伝説の花魁
星川 リリィ:伝説の天才子役
山田 たえ :伝説の???
巽 幸太郎 :謎のアイドルプロデューサー
なにがなにやらといった濃い設定が並びます。
しかし、これが意外と作品に落とし込まれているのが凄いところだと思います。
全編を見終わると、「サキ」は確かに特攻隊長だなぁ。「純子」は昭和のアイドルだなぁと納得できるんです。
では、どうやってこの濃い設定を作品に落とし込んでいるかという点ですが・・・それは、
小さなセリフから大きな山場のシーンまで、一貫して「そのキャラならでは」という描写を大切にしているという工夫にあると感じました。
例えば、伝説の特攻隊長「二階堂サキ」。
彼女は、特攻隊長感のある活躍を作中でいくつも見せてくれます。
・どんな場面でも物怖じせず堂々とする隊長らしさ
・日常シーンでメンバーの体調の悪さを見抜くリーダーらしさ
作中では、色々な側面から「サキ」ならではの特攻隊長っぽさが描かれます。
個性豊かに「そのキャラらしさ」を重ねていくことにより、作品の中で設定に説得力が生まれていると思いました。
「ギャップ萌え」を使いこなす「巽 幸太郎」という男
サキの魅力は、上の例でも見られるように「大胆不敵さ」と「仲間を思いやる優しさ」が両立しているところだと思います。
つまるところ、ギャップ萌えです。
そんなギャップがどのキャラにも上手く作られている点が私は好きです。
中でも、私がこの点で最も気に入ってるのがヒロイン・・・達のプロデューサーをしている「巽 幸太郎」です。
■巽 幸太郎
このキャラは一言で表せば、劇薬みたいなキャラです。
1~2話を見てこのキャラのせいで視聴を断念する人も割といるんじゃないかと思うくらい強烈。
彼の悪行の例としては、
①基本的に人の話を聞かない。
②意識のないゾンビ状態のヒロインたちを、唯一意識のあるヒロインに押し付けてむりやり舞台に上げる。
③アイドルたちのが仲が悪くても全力で放置。
とにかく理不尽で好き勝手やるため、最初は好き嫌いが別れると思います。
かくいう自分も、このキャラは理不尽でやたらとテンション高くてうるさい。
見るのやめようかなぁ・・・と、2話までは少し思っていました。
ところが、3話以降は一転。
上手い具合に全てが”ハマった”キャラになっていきます。
3話以降のハマっていく例は以下の通り。
・2話までは自分が理不尽なだけでしたが、3話からは時々、理不尽なしっぺがえしを喰らってしまう。
・好き放題やっているようで意外と相手を見ている。
・悩むメンバーに対して意外と的を射た発破かけをする。
いつもはギャグ要員なのに、要所要所で熱い展開をこなし、シリアスもこなす。
ただし、どんなシーンでも小さなギャグは忘れない。
そんな、ギャップを見せつつ物語全体をメリハリよくまとめていく姿は、まさに「プロデューサー」でした。
作品が進むたびにどんどん愛着が湧く、名キャラクターだと思います。
魅力的なキャラたちの組み合わせによる相乗効果
「ゾンビランドサガ」は更に、キャラの組み合わせ方も上手いです。
それぞれのキャラの欠けている部分を他のキャラが補う。そんな優しいチームワークがぐっときます。
例えば、今作の主人公たちはアイドルです。
そして、メンバーの中には、伝説のアイドルである愛と純子がいます。しかし、彼女たちだけが活躍するわけではありません。
物怖じしないサキがチームを引っぱり、アイドルに憧れるさくらがチームに熱を与える。
メンバーそれぞれが互いを支えながら活躍をすることで、アイドルユニット「フランシュシュ」としての活動が前に進んでいきます。
このメンバーだからこそ良い。それが全話を見終えた現在の感想です。
「ゾンサガ」の設定は突飛。だからこそ求められる安定感のあるシナリオと演出
この作品はテーマといい、キャラといい、とにかく濃い設定が多いです。
それを淡々と描いてしまえば、作品は一気にしらけたものになってしまう。
描くものが突飛だからこそ、それに負けないだけの安定感のある演出力とシナリオが求められます。
そして、「ゾンビランドサガ」にはそれがあります。
”全力感”のあるギャグシーン
まずは、ギャグシーンの演出から紹介します。
この作品の7割くらいは、「ゾンビならでは」のギャグで出来ています。
それだけに、ギャグが見どころの一つですが、これがとても良い出来です。
【ゾンサガのギャグの良いところ】
・キャスト陣による勢いのあるボケと、急に冷めたツッコミによる緩急。
・ゾンビだから出来るインパクトの有る絵。
・表情豊かなキャラクターたち。
常に全力感のある表情豊かな描写と声優さんの演技があわさり、楽しいギャグシーンがいくつも見られます。
「ギャグ・シリアス・熱さ」のメリハリが大きな魅力
そんな楽しいギャグシーンなのですが、「ゾンサガ」はそれだけではありません。
まずは、ギャグシーンでキャラを好きになってもらう。
その先に待っているのがシリアスなシーンと熱いシーンです。そして、この作品のシリアスシーンは見ごたえがあります。
何故見ごたえがあるのか。
それは、キャラの設定が濃いからこそ、キャラ同士の衝突に納得感があるからだと私は思いました。
彼女たちは、それぞれが伝説と言われるだけの肩書を持っています。それだけに、それぞれが持っているポリシーやこだわりはとても強い。
そのこだわりがぶつかり合う時、シリアスシーンが生まれます。
しかし、それは見ていて気分の悪くなるシリアスではありません。
キャラのこだわりが分かるので、それぞれの言い分に見ている人はが納得してしまう。
だからこそ、こだわりが一体どのような結末に落ち着くのか。
どんどん先が気になるシリアスとなっていました。
更に、そんなシリアスの先にあるのは期待をがっちりと超えてくる名シーン。
ギャグ・シリアス・熱さのメリハリがついた良い作品だと感じました。
音楽を扱う作品だからこそ「音」に感じるこだわり
演出面では、私は特に「音」の使い方が上手いと思いました。
BGMは「NARUTO」や「プリキュアシリーズ」で知られる高梨康治さん等が担当されています。
シリアスシーンや見せ場で挿入される熱いBGMは良い具合に雰囲気を盛り上げてくれます。
また、特に良いと思ったのは効果音の使い方です。
ヒロインたちがゾンビであることを主張するように、作中ではゾンビっぽい音が後ろで鳴っていて笑えます。
シーンの切れ間やギャグシーンでも、丁度いいタイミングで効果音が鳴り、勢いを殺しません。
そして中でも私が感動したのは、見せ場の一つであるライブシーン。
お客さんの歓声や拍手という舞台ならではの効果音が鳴るのですが・・・そのボリュームやタイミングがきめ細やかに調整されています。
舞台が段々と盛り上がっていく、リアルな臨場感が音で表現されており、山場のシーンでグッと作品に引き込まれました。
シナリオと調和したライブパート
アイドルモノの最大の見せ場であるライブパート。
当然、ゾンビランドサガにおいても見ごたえのあるライブパートがあります。
回数は伏せますが、3DCG中心の回と手書き作画のみの回に分かれています。
さて、ゾンサガのライブパートですが、演出面でとても効果的な特徴を持っています。
それは、ライブパートとシナリオが密接に繋がりあっているという特徴です。
どのように繋がっているのかを3点、ご紹介します。
①楽曲のジャンル
各キャラの担当回ではそれぞれのキャラらしさがあふれるシナリオが展開されるのですが・・・
その回で流れる楽曲も、シナリオとキャラに相応しいジャンルが選ばれています。
そのため、普通のアイドルモノでは見られないようなジャンルの楽曲が幅広く作られており、新鮮な気持ちでライブパートを楽しめました。
②キャラの身振り手振り
ライブパート中、ダンスの振り付け以外の仕草にこだわりが見えます。
例えば、それまでの話の中で協力し合った二人がアイコンタクトを送り合うシーンが入っているなど、話の流れを踏まえた細やかなキャラの身振り手振りがシナリオへの共感を高め、展開をより一層盛り上げてくれます。
③歌詞とシナリオのリンク
私の中ではこれが一番響きました。
ゾンサガの楽曲の歌詞は、全てがキャラクターへのメッセージやキャラクターの思いを代弁したものとなっており、シナリオと密接にリンクしています。
また、歌詞の内容は大分わかり易い直球なものが多いです。
そのおかげで、ライブを見ながらでも歌詞がすっと頭に入ってくる。
そのため、自然な流れでどんどんライブにのめり込んでいけます。
山場となる回のライブパートではキャラを応援する気持ちで一杯になりました。
このような、シナリオとライブパートのつながり合いにより、山場となる回はとても見ごたえのあるものとなっていました。
”魅せるギミック”が必ずある
ネタバレとなるため詳しくは欠けないのですが、ライブパートのもう一つの特徴として挙げたいのが、「ゾンビランドサガ」ならではのライブギミックです。
「ここでそんな演出を持ってくるか!」と思わず唸ってしまうようなギミックが組み込まれたライブパートの演出は是非見ていただきたいと思います。
「ゾンビ・アイドル・佐賀」それぞれの良さが引き出されている
ここまで、キャラと演出・シナリオの良さを説明してきました。そんな魅力的な素材を使って描かれるのが「ゾンビ・アイドル・佐賀」の3つです。
これもまた、上手くその良さが引きだれています。
ギャグだけじゃない”ゾンビ要素”の活かし方
この作品はゾンビであることを活かしたギャグが大変豊富です。
体がバラけるのは日常茶飯事で、絵的に面白いギャグがいいテンポで展開されます。
ただ、この作品のいいところは、「ゾンビネタがギャグだけではない」ところにあります。
【ギャグ以外でゾンビが生きた例】
・ゾンビとして蘇ったからこそ、花魁から現代の天才子役まで、時代を超えたメンバーがフランシュシュに集まれた。
・ゾンビだからこそ、ただの人間では出来ない見せ場を作ることが出来る。
詳しくはネタバレになってしまうので割愛しますが、ゾンビであることを最大限に活かしたシナリオが描けている点が非常にいいと思いました。
ゾンビに負けない存在感、芯の通ったアイドル描写
もう一つのメインテーマであるアイドル描写も骨太です。
”伝説のアイドル”や”アイドルに憧れた少女”など、この作品のメインキャラにはアイドルにまつわるキャラが何人もいます。
そして、そのそれぞれがアイドルへ方向性の違う強い思い入れを持っている。
これで、物語が生まれないわけがありません。
キャラたちの持つ価値観の違い、いわば”アイドル哲学の違い”が骨太なアイドル描写を生んでいます。
アイドル系アニメの傑作である「ラブライブ!」や「アイドルマスター」とはまた違う、アイドルという在り方自体に踏み込んだ描写は、私がアイドルモノに求めていたものの一つでした。
異色の設定の中で、地に足の着いたアイドルストーリーが展開される。そんなギャップに強くハマります。
気になった点
ここまで、良い点を紹介してきましたが、ここは惜しいと感じた点も有りましたので簡単に紹介します。
完成度の高い回と普通の回がある
ゾンサガは全体的に完成度の高い回ばかりだと思います。
しかし、いくつかの回は(高い回と比較すると)完成度がやや低い回がありました。
主にシナリオ面になりますが、全体の構成の中でこの話はあまり効果的じゃないのでは、冗長なのではと思う回や、どうしてこの展開になるんだろうと、すっと頭に入ってこない回が個人的にはありました。
ライブパートについて、調整不足に感じるところも・・・
とても良いライブパートだからこそ、何回か見ている中で少し気になるところがありました。
3DCGの回になりますが、フレームレート不足によるカクつきがきつすぎる場面があったり、キャラごとのダンスの動きが若干揃っていなさすぎて見にくくなっていたり、カットの切り替えが少し長すぎる場面があったりなど。
一つ一つはわずかな違和感をうむ程度ですが、ライブパートへの感情移入が少し薄まってしまうのは気になりました。
総評価と感想『ゾンビランドサガ』
・”ギャップ萌え”要素を持ったキャラクターたちが繰り広げる明るくギャグ多めの物語は元気がもらえる
・「ゾンビ×アイドル×佐賀」要素が詰め込まれた物語は、1話1話が新鮮で印象的
・奇抜な設定でギャグ多め。しかし熱さもシリアスも見応え充分という、一粒で3度美味しい素敵な作品
・本格的にバズるきっかけとなった7話は今年のアニメの中でも屈指の出来
思い返すと、やはり1~2話あたりでこの作品のポテンシャルに気づけなかったのは反省しかないです。
ギャグのキレ。キャラの魅力。シリアスと熱さのバランス。そして、他の作品で見れないような、アイデアのつまったライブパート。
エンタメの全てがつまっていると言っても過言ではない作品という感想です。
また、一気に話題作へと化けた第7話の盛り上がりを超えてこれるか。そこが心配でしたが、最終話で見事に走り抜いてくれました。
今年は「宇宙よりも遠い場所」に始まり、「ゾンビランドサガ」で締まる。
2018年は良いオリジナルアニメに巡り会えて大変幸せでした。
要素別評価の理由
カテゴリ:アイドル・コメディ
総評:★★★★★(88点・良作)
シナリオ:★★★★☆
ギャグだけではなくシリアスや熱いシーンが手堅く描かれている点が好評価。特にシリアスシーンで嫌われるキャラを作らなかったのは非常に基礎力が高いと感じた。
1話の中での起承転結がしっかりしているのが特徴で、5話は落語のようなオチで短編エピソードのお手本のような出来。
記事内で触れたとおり、クオリティが高い回とやや落ちる回があったのは惜しかった。
キャラクター :★★★★★
本記事の通り。
全てのキャラに見せ場があり、チームとしての団結力も描かれておりキャラクターが大切にされている印象。
また、キャストの演技が素晴らしい。特に、主人公「さくら」役の本渡楓さんのアバンタイトルでの長台詞やさくらの見せ場回での真に迫る演技は「さくら」というキャラを好きになる大きなきっかけとなった。
演出 :★★★★★
(音楽 :★★★★★ 絵 :★★★★☆ アイデア:★★★★★)
音楽については、BGMは本記事の通り。更に、歌についてもジャンルを幅広く扱っている上にどれもキャッチーな出来でレベルが高い。特にライブシーンの楽曲は勝負回に相応しい出来。
絵については作画の乱れがほとんどなく、表情が豊かなところが良い。構図も見ていて楽しいシーンが多い印象。ただ、強く印象に残るだけの描き込みのあるシーンが少し足りないように感じた。
アイデア面は文句なし。アイドル・ゾンビ・佐賀という要素を上手く活用している。某勝負回のシーンは発想とそれを飲み込ませるだけの勢いを生む演出に脱帽。