2019年春公開『プロメア』をネタバレ無しで、感想・評価とあわせてレビューします。
※ネタバレ有り感想は、ページ最下部に掲載しています。
おすすめ度:★★★★☆(73点)
一言感想 :絶妙な台詞回しとド派手なバトルが魅力的な、作り手の「熱量」を感じる作品
「1分で読める」レビュー要約
【超あらすじ】
バーニッシュと呼ばれる、炎を操ることの出来る人間達のリーダー「リオ」と、バーニッシュの起こす火事を専門とする消防隊に所属する「ガロ」。
二人は互いに対立しながらも、やがて、世界に潜む陰謀やバーニッシュの真実を巡る戦いに巻き込まれていく・・・
【作風・作品の印象】
・「天元突破グレンラガン」などを手がけた今石洋之監督の最新作。これまでと同様、勢いの良さと作品につめこまれた熱量の多さが魅力
・ノリよくテンポよく話が進み、ド派手なバトルシーンがひっきりなしに巻き起こり、上映中、まばたきが出来なかった
・設定は面白いものの、テーマを深掘る面白さや緻密に計算された構成といった、シナリオ面の味わい深さは乏しかった
【主な見どころ・長所】
◎印象に残る台詞回しと演出アイデアが生む熱量の多い映像
◎実力派俳優陣が声を吹き込んでいる個性が強烈なキャラクターたち
【気になった点・短所】
△映像の勢いだけでは流しきれない、ご都合展開
△素材だけで終わってしまった、もったいない要素達
導入
春から夏にかけて続くアニメ映画ラッシュの先陣である「プロメア」を見てきました。
冒頭、「海獣の子供」や「天気の子」など今後の期待作のPVが流れます。見るのもレビューを書くのも、今から楽しみです。
平日の早い時間だったので、お客さんはまばら。
客層はカップルがわずかと、自分と同じくアニメ好きのオーラを感じる男性陣が中心でした。
さて、今作「プロメア」は、2007年のTVアニメ「天元突破グレンラガン」などで知られる、
監督:今石洋之×脚本:中島かずきのタッグによる初のオリジナル劇場アニメーションです。
私が今作に期待していたのは、ド派手なバトルによる映像美・キャラの魅力・熱い演出、そして「見る人を作品に巻き込んでいく工夫」でした。
見終わった感想としては、最後以外はおおよそ期待通りです。
ただ、最も大事な「見る人を作品に巻き込んでいく工夫」が物足りなく、作品の充実感は今一歩といった印象を持ちました。
今回のレビューでは、「作品の熱さやキャラの魅力」といった良い点と、物足りなさを生んだ要因かなと思うシナリオ構成などの気になった点を中心に、「プロメア」を紹介します。
評価(5段階・要素別)
カテゴリ:アクション
総評価:★★★★☆(73点)
シナリオ:★★★☆☆
キャラクター:★★★★☆
演出:★★★★★
(音楽:★★★☆☆ 映像:★★★★★ アイデア:★★★★★)
※評価の理由は、ページ下部に記載しています。
『プロメア』の良かった点・見どころ
◎印象に残る台詞回しと演出アイデアが生む熱量の多い映像
印象に残る台詞回し
この作品の良いところは、やはり「熱い」と感じる演出の数々だと思います。
その中でも、まずは台詞回しから紹介します。
この作品の台詞は、正直凄いとしか言えないです。
作品のメインテーマは「火」。
それにキャラクターの価値観を乗せ、更にこの作品ならではの見得を切るような演出をつける。
結果、絶妙にキマった上手いセリフが聞けます。
例えば、PVでも聞ける主人公「ガロ」の決め台詞。
「俺の火消し魂に火がつくぜ!」
相反しているようで実はしていない、印象に強く残る台詞回しです。
■主人公「ガロ」
また、作中終盤の台詞。
「俺が消してやるよ。あんたの野望の炎をな!」
主人公の設定と、繋げて上手いことを言っています。
こういった、印象に強く残る台詞が作中に多く散りばめられており、作品に熱量が生まれていました。
「火」から生まれた豊富な演出アイデア
続いて、演出の幅広さも作品の面白さを生んでいたと思います。
「火」というテーマから連想ゲームのように色々な設定やギミックが生まれていました。
ギミック例はこんな感じです。
・主人公の乗るメカが江戸時代の消防隊である、「火消」をモチーフにした独特の形になっている
・基本的に火VS氷の対立軸で、敵味方が別れている
・窯でピザを焼いてる人が実はバーニッシュ
・地球の地殻内のマグマが物語のキーの1つ
このように、「火」というテーマを色んな側面から描くことで、この作品ならではの映像を作っていたと思います。
■ガロの乗るメカ。纏が武器になっている
◎実力派俳優陣が声を吹き込んでいる個性が強烈なキャラクターたち
俳優陣の声当てが完璧でした
この作品はキャスト陣が凄いことになっています。
■出番の多いキャラのキャスト表
ガロ・ティモス:松山ケンイチ
リオ・フォーティア:早乙女太一
クレイ・フォーサイト:堺雅人
アイナ・アルデビット:佐倉綾音
ドラマを見てるのかと錯覚するようなキャスト陣です。
こういった声優の方以外がキャストになっている作品を見るときに心配になるのは、やはり「棒読み演技」になっていないかという点です。
今作では、全くそんなことはなく、むしろ演技にどんどん引き込まれました。
特に、クレイ役の堺雅人さんの演技は一足早く「半沢直樹」シリーズの新作を見ているような強烈なものとなっていました。
※イメージはこちらのPVで味わえると思います。
■クレイ
また、ガロ役の松山ケンイチさんの演技も良かったです。
ガロはとにかく熱い漢という、終始叫びっぱなしな大変な役でしたが、上手くその熱量を体現されていたと感じました。
どの方も声優さんとはまた違う、独特な声の個性が感じられてとても楽しく見ることが出来ました。
そもそも設定が濃いキャラクター達
上記のように、キャスト陣のキャラが既に強いのですが・・・当然、キャラの設定面も濃いものとなっています。
熱い男でありながら、仕事は火消しというガロ。
可愛い系な見た目と裏腹に声は普通に低く、芯がしっかりしているリオ。
伝統の目を開かない系キャラのクレイ。
どのキャラも一筋縄ではいかない個性を持っており、見せ場のシーンではよくそれが表現されていたと思います。
『プロメア』の気になった点・短所
△映像の勢いだけでは流しきれない、ご都合展開
ここからは、気になった点について紹介します。
まずは、シナリオ面。
一言で言えば、ご都合展開に見えてしまうんです。
まず、物語中ではガロが何度もピンチに陥るのですが、その状況の打開策が微妙です。
基本的に、伏線とか事前の準備とかはない。
その場で出てきた新要素でピンチが解決できてしまいます。
主人公たちは頑張ってるんですが、事前の苦労などの描写がないのでイマイチ展開にのめりこめません。
また、主人公達が本当の意味で苦労していない点もマイナスに感じました。
ピンチにはなるんですが、打ちひしがれたり、絶望したりと言った追い込まれるシーンはほぼありませんでした。
こちらも、感情移入をさまたげる要因になっていたと思います。
△素材だけで終わってしまった、もったいない要素達
続いて、キャラクター面です。
折角の良い素材があまり生きていないんです。
この作品でメインに活躍するのは、ほとんどが「ガロ」・「リオ」・「クレイ」に集約されます。
それ以外のキャラは、最初と終盤の2回くらいしか活躍しません。
そのため、折角の個性ある他のキャラが生きていませんでした。
特に残念なのは、ヒロイン枠の「アイナ」の影が薄い点でしょう。
ガロとアイナの相性は割といいと思います。
作中でも、恋愛っぽい方向に発展しそうなシーンはわずかにありました。
そして、そのシーンの出来が結構良かった。
しかし、そのシーン以降はほとんど彼女は活躍しません。
こちらの恋愛要素を広げていけばもう少し幅広く見やすい作品になったんじゃないかなぁと思います。
■ヒロイン「アイナ」
シナリオ面でも、もったいない要素はあります。
冒頭では、バーニッシュが生まれた原因が「現代社会の抑圧と爆発」であることがほのめかされます。
しかし、そのシーン以降は上記のテーマは鳴りを潜め、ひたすらエンタメとしての展開が続いていきます。
バーニッシュなどの設定自体は新鮮で面白いのですが、そこから立ち上がってくる作品のメッセージ性は特に感じられず、作品の深みが乏しいと感じました。
総評価と感想
◎「火」をテーマとして連想ゲームのように構築された台詞や演出は、斬新でアイデアがつまっている。
◎俳優陣の声と演技により独特な存在感のあるキャラクター達の掛け合いは見応え充分。
△シナリオは、伏線や感情移入させる工夫は少なく、構成面での面白さに乏しい。
△ヒロイン枠の「アイナ」の影の薄さなど、素材が生きていないと感じられる部分が多い。
感想としては、間口の狭い作品だと感じます。
今までの「天元突破グレンラガン」などの作風を知っている人からすれば、この作品の勢いやノリ、バトル盛りだくさんのテンポ感を楽しめると思います。
その一方で、一般的なエンタメにおけるお約束である恋愛要素や主人公の挫折や苦労、予想外の展開を上手く見せる演出などは乏しく、いわゆるトリガーアニメ初心者な方には楽しみにくい作品のように思えます。
結論としては、細かいことは良いからド派手なバトル作画や、勢いのある台詞や演出が見たい!という人にはおすすめできる作品だと思います。
評価(5段階・要素別)
カテゴリ:アクション
総評価:★★★★☆(73点)
シナリオ:★★★☆☆
全体の構成としてみると、イマイチな出来。
テーマ性の深掘りや伏線の回収といった構成の面白さは乏しい。また、ご都合展開に見えるのもマイナス要素。
一方で、記事の通り、台詞回しやキャラの掛け合いは個性的で面白い。
キャラクター:★★★★☆
記事の通り、主要キャラ3人はキャストの演技が効いており非常にキャラが立っている。
しかし、その他キャラの影の薄さは残念。
演出:★★★★★
(音楽:★★★☆☆ 映像:★★★★★ アイデア:★★★★★)
本作の目玉。
音楽は同じ挿入歌が繰り返される点がとても気になった。少しくどい。
映像面はいつものトリガー作品。グリッドマンやキルラキル等と同様に、カメラが動き、キャラが動き、メカが暴れ、背景が壊れるド派手な映像。
アイデア面は記事の通り。
ネタバレありで語りたい(ネタバレあり感想)
ここからは、肩肘張らずにネタバレありで感想を書き連ねます。
未視聴の方は、バックをお願いします。
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では。
正直、今作はネタバレ有りで語りたい内容が殆どないんですよね。
ロングPVで大体すべてネタバレされているので・・・
そうは言いつつ、いくつか。
■湖でのアイナとのデートシーン
このシーンはいい出来だったんですけどね。
まず、あれだけ熱い男であるガロが氷の湖で頭を冷やすというギャップがいい。
しかも、氷の湖という舞台がロマンがある。
そこでスケートしながら語り合うっていうのは物語中盤のシーンとしては理想的な距離感だと思います。
クールかつ強気なアイナがデレるのもギャップがあって可愛かったです。
しかし、そこからの発展がまったくない。むしろ・・・
■リオとガロのキス(人工呼吸)シーン
う~ん。アカン。
ただでさえ間口が狭い作品なのに更に狭めてどうするのか。
まぁ伏線自体は貼られていたんであまり気にはなりませんでしたが、逆に言うと印象にあまり残らなかった感じです。
ただ、個人的に気になったのは、ガロが人工呼吸の前に「ええい仕方ない」みたいな台詞を喋った点です。
レスキューの訓練請けてる人がそれを言うのはそれで良いのかなぁと思いました。
■終盤の展開について
一番の問題点ですね。
キャラ名にデウス・エクス・マキナ(どんでん返し・予定調和とかそんな意味合い)ってつけて開き直られても、見る側は困ります。
いうなれば、「ご都合展開で突き進むけどなにか文句ある?」って言われているようなもんです。
シナリオの構成を気にする人が多い現代で、勢いとノリがあれば展開をカバーできるというのはちょっと難しくなりつつあるんじゃないかと思います。
また、プロメアという生命体について掘り下げられていない中で、「最終的には彼らが満足したらからなんとかなったんだ」というのも乱暴に感じます。
やはり、飛躍した展開の前にはそれに応じた前フリが欲しいと改めて思いました。
そういう意味では、序盤の各キャラ紹介⇨段々と派手になり⇨歌舞伎役者のように登場したガロの紹介という流れはきちんと前フリが出来ていたなぁなんて思います。
総括すると、グリッドマンのレビューで記載したのと同じ内容になります。
つまるところ、最近のトリガー作品は見る側と作る側の距離感のようなものを感じます。
以上、プロメアのレビューでした。